エッセー

考え方のヒント 基本1「この世に正しい人はいない」

情報はたくさんあふれていますね。知りたい情報はきっと手に入る。でも、生きていく上では情報だけでは足りません。考え方というものが身についていないと、情報をどう利用して良いのかがわからないのです。例えば、進路を選ぶときにたくさんの学校の情報はすぐ手に入ります。でもどの学校を選ぶかは自分で考えなければなりません。そのときに、どんな風に考えればいいのか、考え方の訓練が必要なんです。

この世の中には色んな意見があふれています。例えばコロナに関しても、ワクチンを打った方が良いというひともあれば、打たない方がよいという人もいます。ロシアがウクライナに攻め込んだことについても、だからやっぱり核武装は必要だという人もいるし、いやいや核廃絶をしなければという人もいます。何を信じたら良いのでしょう?

もちろん、信頼できる誰かと相談することが大切です。それもあなたより経験の豊かな、そしてあなたが尊敬できるだれかと。でも、そういう人がいない、というひとのために、この文章が役に立ってくれればと思っています。

ここでは、さまざまな個別の問題を考える前に、いくつか考えるためのしっかりした基礎を作っておきたいと思います。その基礎から出発し、わからなくなったらその基礎に立ち戻って考える。少なくともこれだけは正しいと言えるのではないか、そういうものが、より複雑な問題を考えるときに大変助けになるのです。きっとこの文章を読みながら、みなさんも考えることをしなければならなくなると思います。それも含めてお役に立てればよいなと願っています。この考えるヒント(基本編)は、数回を予定しています。第1回は、「この世に正しい人はいない」ということについてお話ししたいと思います。この文章は、次のような内容を含んでいます。

  • 1 正しさは価値観によって違う
  • 2 正しさは場所によって違う
  • 3 正しさは時代によって違う
  • 4「自分が絶対に正しい」という人は全員間違っているか嘘をついている。
  • 5 ならばどう生きれば良いのか?「道」の考え方

1 正しさは価値観によって違う
誰もが正しい選択をしたいと願っています。失敗をしたくないと思っています。だから、「これが正しい!」という人や、「こうすれば失敗しない!」という人がたくさんいます。けれども、よく考えてみると、「正しさ」とは何でしょう?正しさは、状況や時代、場所によって変わるものではないでしょうか?そしてあなたが何を大切にしているかによっても、正しさは変わってきます。あなたが「向上したい」と願っているなら「冒険」が必要です。でもあなたが「安心安全」が第一と考えるなら、家から出なければ良いのです。

2 正しさは場所によって違う
今、ロシアとウクライナの間で戦争が起こっています。ウクライナと世界のほとんどの国々は、これを侵略だとして非難しています。しかしロシアのプーチン大統領の目から見ると、これはロシアの自衛のための先制攻撃なのです。自衛のために先制攻撃する権利については、日本でも議論が行われています。ロシアにとっては、ウクライナが西側の国と仲良くなって、そこに西側の軍隊や核兵器が配備されるようになれば、自国の安全が脅かされると考えているのです。

3 正しさは時代によって違う
昔は、男は男らしく、女は女らしくすることが正しいことだとされました。しかし現在では、そうした「らしさ」はジェンダー差別を生むとして、もはや正しいこととはみなされなくなりました。

4 「自分が絶対に正しい」という人は全員間違っているか、嘘をついている。
つまり、正しさというものは、時代や場所、価値観によって一つではない、ということがわかります。それで、今日の「考え方のヒント」第1回の結論は、「この世に正しい人は一人もいない」ということになります。なんだか悲観的な結論ですね。けれども、わたしたちが何かを真剣に考えようと思う時、まずここから出発しなければなりません。
この出発点を確認することができると、次のことがわかります。つまり、「これは絶対に正しい!」と言う人は、全員、間違っている、ということです。人間はつい何かを断言したくなりますし、断言してもらいたいという気持ちになることがあります。けれども、それは多角的な見方ができなくなっている証拠。思考停止状態に陥っている証拠なのです。どうでしょう?簡単ですね。新興宗教でも、「こうすれば絶対幸せになれる」と言う人は間違えているか、嘘をついているのです。「この方法は絶対儲かる」というのも同じです。これは哲学の祖と呼ばれるソクラテスが、「自分は何も知らない、ということを知っている」(無知の知)から出発したのと似ています。

5 ならばどう生きれば良いのか?
しかしもし絶対に正しいことがないとしたら、わたしたちはどう生きたら良いのでしょう?それは、自分が間違っているかもしれない。相手が正しいかもしれないということを心の片隅に起き、いつでも相手の言い分に耳を傾ける余地を残しながら、とりあえず自分の信じた道を歩むという生き方をすることです。そして誤っているとわかった時には率直にそれを認めること。常に真理に向かって心を開き、学び続けなければなりません。ちょうどソクラテスの無知の知が、真理を探究する出発点になったように。

日本には「道」という考え方があります。柔道、剣道、茶道、華道。全て真理へ至る道という考え方です。どの道を通っても真理へ至るのです。何が正解か分からないから何もしない、というのとは違います。自分の道だけが正解で他の道は間違っているというのも違います。人の道を尊重しつつ、己の道を歩むのです。他者を尊重しつつ、謙虚に、しかし勇気をもって自分の道を歩む。それが、「正しい人は一人もいない」という前提に立った上で生きる、最善の生き方だとわたしは思います。

いかがでしたでしょうか?多くのひとが、カルト宗教やマルチ商法、極左や極右の団体に騙されてしまいます。そうした団体に洗脳されると、他者の意見を聞くことができなくなり、自分たちだけが正しいと信じきるあまり、他者に攻撃的になってしまいます。そうした人生はとても不幸なものです。まずは「正しい人は一人もいない」ということから出発してみてはいかがでしょうか?次回は、考え方のヒント基本2は「人生は等価交換」ということについて考えてみたいと思います。

参考文献
「ソクラテスの弁明」は様々な出版社から出ていますが、ぼくのオススメは田中美知太郎先生のこの訳です。先生は素晴らしいプラトン学者であり、哲学者でもあります。

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つじもと ひでお
こんにちは、つじもとひでおです。大学卒業後、ビール会社に5年間勤めたあと、30年間、高校で英語を教えていました。部活動はジャズバンドの指導もしていました。現在も、新潟ジュニアジャズオーケストラで小学校から高校までの子どもたちにジャズを教えています。