水木しげる先生は日本を代表する漫画家です。漫画だけではありません。エッセーも面白いし、人生観がすばらしい。とくに今大変な思いをしているひとたちを励ましてくれること間違いありません。先生が戦争や貧乏を切り抜ける姿は、どこかとぼけた味わいがあり、ユーモラスですらあります。そこから元気をもらうことができるんです。
ただ先生の作品は膨大です。どれを読んだらいいのでしょう？そこで今日は、先生の作品群をジャンルに分け、それぞれのお勧めをご紹介したいと思います。それぞれ楽天ブックスのリンクを貼っていますが、全て京極夏彦先生の全集を選んでいます。さまざまな出版社から出ているのですが、最終的に全集で揃えたい！という場合に備えて、全終盤をおすすめしています。そして何より、京極先生の水木先生愛がすごい。愛情のこもった全集の作りになっています。
さて、先生の作品は、下記のジャンルに分類できます。
- １ 貸本時代の漫画
- ２ 妖怪漫画
- ３ 戦記物
- ４ 自伝・エッセイ
- ５ 短編
１ 貸本時代
戦後間もなく、先生は紙芝居作家からそのキャリアをスタートされました。紙芝居が衰退し、次に移ったのが貸本の世界。貸本業界も、やがて雑誌の流行とともに滅びてしまうのですが、この貸本時代のまんがには、もうすでに水木ワールドは全て表現されています。戦記物や妖怪もの、全てがあります。でも、ちょっとマニアックなので、上級者向けです。中でもぼくの一番のおすすめは「悪魔くん」。この世の不公平を悪魔の力で正す不思議な少年の物語で、その少年の生涯はイエスキリストになぞらえられていています。悪魔くんは後に雑誌でリメイクされるのですが、貸本や時代の「悪魔くん」の持つ魅力にはかないません。
２ 妖怪漫画
妖怪漫画はもちろん「ゲゲゲの鬼太郎」が代表作です。でもここでご紹介したいのは「河童の三平」。河童の国に迷い込んだ三平少年と、三平そっくりの河童がくりひろげる珍騒動。タヌキ、死神など、登場人物がみなほのぼのしてるんです。そして鬼太郎もののような勧善懲悪ではない、何とも言えない深みがあります。
３ 戦記物
水木先生ご自身が太平洋戦争に出征しています。余談ですが水木先生はゲーテが好きで、エッカーマンの「ゲーテとの対話」を兵隊カバンにしのばせていたといいます。生来のんびりしている先生は軍隊生活はたいへんだったようです。それだけにあの戦争の理不尽さが身にしみて感じられたのだと思います。部隊が全滅し、命からがら味方の陣地に逃げ戻った時、「なぜ生きて戻ったのか！」と非難されたことは先生にとって一生忘れられない経験でした。その経験をもとに描かれた漫画が「総員玉砕せよ」です。
４ 自伝・エッセイ
漫画ではありませんが、先生の自伝「ねぼけ人生」は本当にオススメの一冊です。妖怪にあこがれた幼年時代。片腕を失いながらも九死に一生を得た軍隊生活。輪タク（自転車タクシー）屋などをやりながら生き延びるのに必死な戦後の混乱期。貧乏にあえぎながら漫画を描き続けた日々。売れるようになってからの殺人的な忙しさと奇妙なアシスタントたちの人間模様。そんな先生の人生観は「好きなことをして生きよ！」です。必死なのにどこかコミカルなのは、人生を達観する視点のおかげ。この視点を学ぶことで、クルシミをおかしみに変えるんですね。漫画では奇妙なアシスタントたちを描いた「ドブ川に死す」がオススメです。アシスタント中に「男組」の池上遼一先生、「ねじ式」のつげ義春先生がいたことも紹介されています。全集では７５巻、「霊形手術」に収録されています。
５ 短編
短編は、エドガー・アラン・ポーやロアルド・ダールのような不思議な味わいを持った物語がたくさん。中でもぼくが好きなのは、サラリーマン山田氏の登場するもの。さえないサラリーマン山田氏のため息は「フハ」という音なのですが、これは水木先生によると「鼻から空気が出る音で、人間が失望ラクタンしたとき、しばしば空気が鼻毛にふれてでる音である」と述べておられます。（笑） 山田氏の登場する短編では、名前を書くと書かれた人が死んでしまうという「不思議な手帳」がおすすめ。設定がデスノートと同じということでも話題になりました。「不思議な手帳」は、先にご紹介した「ドブ川に死す」と同じ、全集７５巻「霊形手術」に収録されています。
いかがでしたでしょうか？水木しげるワールドは広く深いものです。今ご紹介した作品をきっかけに、全てを読破するのも良いと思います。きっとあなたの人生を豊かに楽しくしてくれることと思います。初めに申し上げた通り、先生の作品を網羅するには、京極夏彦先生の全集が最適です。ぼくは色んな出版社から出ていたものを百冊以上揃えたのですけど、被ってしまう短編などがあって、本当にこの全集はありがたいなーって感謝しています。
ポチップ
