音楽・ジャズ・ポップス

ビートルズ入門 その1(時代背景など)

ビートルズハラスメントという言葉があるくらい、おじさん(おじいさん)たちは、ビートルズが好きです。「音楽が好きなら、まずビートルズを押さえておかなきゃ」って、なにかとうるさい。
ロックの全盛期は1970年代で、その頃の世界はもうやたらと元気が良くて、今、70歳ぐらいのおじいさんたちは当時、鉄パイプを持って警察官と殴り合いをしながら、ロックを歌い、「世界平和」を訴えていました。(ちょっと矛盾を感じるけど。)そのことにものすごく誇りを持っているんです。それで、ビートルズやロックの話になるとどうしても鼻息が荒くなっちゃう。
だから、ビートルズについて基本をおさえておくと、「おっ、分かってるねー」と喜ばれたりします。それだけじゃなくて、ビートルズは本当に今の音楽の基本だし、やっぱり音楽が好きな人はちゃんと聴いておくべきとも思います。何より、とっても素敵な音楽なんです。
というわけで、そういうおじさん対策も含めて、今日はビートルズの時代背景など、実際にビートルズを聴く前の予備知識みたいなものをご紹介したいと思います。以下はこの記事のもくじです。

1 1970年代ってどんな時代だったの?
2 ベトナム反戦運動、安保反対運動
3 精神は「反抗」と「平和」
4 若者ファッションの誕生
5 ビートルズは70年代のロックの象徴
6 ロックのその後
7 LPレコードについて。アルバムについての考察

1 1970年代ってどんな時代だったの?
1970年代にロックは全盛期を迎えます。その頃に二十歳だった人は、今70歳。いわゆる団塊の世代の人たちです。
70年代を一言で言えば、若者が大人に向かって初めて異議申し立てをした時代、ということなんだと思います。それまでは、お父さんのやりかた、お祖父さんのやりかたの通りにしていれば良かった。でも、70年代に、中国で文化大革命というものが起こり、「造反有理」という考え方が広がった。これは、反逆する者には理がある、という毛沢東が作ったスローガンです。
今になって見ると、文化大革命は中国共産党内の権力闘争に若者が利用された、という側面が大きいのだけれど、歴史的には初めて若者が大人に反抗する大義名分を得たという画期的な出来事でした。世界中で、パリでもロンドンでも、そして日本でも、若者が大人に反抗しました。例えば、日本だと、四谷を大学生たちが教室の机や椅子を持ち出して、バリケードを築き、「解放区」を宣言したりしたのです。そして、東京大学の安田講堂に立てこもって、機動隊と激しく戦いました。

2 ベトナム反戦運動
反抗する理由の中心は、「戦争反対」でした。日本では安保反対運動でしたし、アメリカではベトナム戦争反対運動でした。当時はアメリカがベトナム戦争を戦っていたし、東西の冷戦下で、いつ世界が核戦争で滅びるかもしれない、という緊張状態にありました。でも、そういう世の中を作ったのは大人ですよね。1945年に終わった第二次世界大戦では、世界で6千万人の人が死んだと言われています。(第一次世界大戦は1千万人。)それでも、それまでの世界には戦争を悪とみなす考え方はほとんどありませんでした。ところが1970年代になって初めて、「大人は戦争ばかりしているじゃないか。それってどうなの?若者は、そんな世界を望んではいない。」そういう考え方が生まれたのです。

3 だからロックの精神は「反抗」と「平和」
それで、ロックミュージックの話にもどるのですけれど、70年代のロックというのは、そういう若者の異議申し立ての最大の手段、みたいな位置付けでした。若者は、鉄パイプも振り回し、ロック(音楽)を歌って大人に異議を申し立てました。だから、「スクール・オブ・ロック」という映画でも言われているように、ロックの精神とは「反抗」の一言に尽きるのです。そして、反抗したのが戦争をよしとする大人の価値観だったことから、「平和」を訴える歌が多く作られました。
「ロックの精神は反抗ですよね。」この一言を言ってあげると、きっとおじさんたちは、君のことを愛してくれますよ。あと、どうしてこの年代に野党支持者が多いのかもちょっとわかってもらえたかもしれません。

4 若者のファッションも70年代に生まれた。
70年代以前は、大人も子供も同じ服を着ていました。子供は小さい大人、みたいな格好をしていたんです。ところが、70年代になって、若者はジーンズとTシャツみたいな若者独自のファッションを生み出しました。ミニスカートもそうですし、長髪もそうです。こうした若者のファッションをリードしていたのが、ビートルズでした。当時のビートルズのレコードのライナーノーツを読むと、「1ヶ月も床屋に行っていないような若者が現れた」と書かれています。いわゆる、マッシュルームカットでさえ、当時の大人の目には「だらしがない」ように映っていたのですね。やがて髪の毛はどんどん伸びて、”Let It Be”に至るのです。

5 ビートルズは70年代のロックの象徴
つまり、70年代の時代精神は若者の大人への反抗。そのツールが、反戦運動であり、ロックであり、若者のファッションでした。そして、ビートルズはそれら全ての象徴でした。

6 ロックのその後
ロックは大人への反抗として始まりましたが、やがてロックが「売れる」ようになると、ロックスターたち、ビートルズも、レッド・ツェッペリンも、ディープ・パープルも、エマーソン・レイク・アンド・パーマーも、エリック・クラプトンも、ローリング・ストーンズもみんな大金持ちになりました。それで、ロックは儲かる、ということになって、80年代以後は、大人(70年代に若者だった人たちが大人になって)が金儲けのために、若者を利用するようになりました。大人が企画して、若者が言われた通りに演奏する。つまり、ロックが資本主義に飲み込まれ、商業主義になったのです。ですから、70年代に若者だったおじさんたちは、商業主義化したロックを、「それってロックじゃなくね?」みたいに思っているのです。
でも、ロックを金儲けの商品にしたのは、実は70年代に鉄パイプを振り回していた同じ人たちなんです。なんだか矛盾を感じますよね。だから、おじさんたちが「ロックは死んだ」なんてよく言うのですけれど、現代の若者としては「じゃ、それは一体誰の責任だ」ってことにもなるのです。
でも、そういうことを全て理解した上でもなお、やっぱり、ビートルズはロックの原点だし、エネルギーとか問題意識とか、芸術性とか、いろんなことを考えても、バッハ、モーツアルト、ベートーベンの次は、マイルス・デイビスで、その次にはやっぱりビートルズが来るんだと、ぼくは思います。

7 LPレコードについて。アルバムについての考察
ビートルズには13枚のアルバムがあって、そこに、アルバムに入っていない曲を集めたパストマスターズというアルバムが2枚。全部で15枚を聴けば、ビートルズの全てが分かります。意外と少ないでしょ?だから、全部聴いてしまいましょう。初期の音楽は若々しい躍動感があり、中期の作品には深い音楽性が、、後期の作品には時代を切り拓く音楽のパイオニアとしての芸術性があふれています。それぞれに楽しい。

今はサブスクリプションとかが多くて、アルバムという概念が薄れているかも知れないけれど、70年代は、LPレコードというフォーマットでアルバムはリリースされていました。LPレコードには、表と裏の両面あって、だいたい片面が20分ぐらい。両面で40分ぐらい。だから、A面が終わると、盤をひっくり返すという作業が入ります。大相撲じゃないけれど、そこに微妙な間があって、アルバムはそういうことも考慮して構成されているのです。アーティストたちはA面の最初と最後。B面の最初と最後の曲にはやっぱりものすごく気を使ったし、聴かれる順番も含めて一つの作品、と考えていたと思います。
あと、レコードは高価だったから、新しいレコードを買った若者は、ちょっと大げさに言えば、正座などして聴いたものでした。そして何回も何回も、それこそレコードの溝が擦り切れるまで繰り返して聴きました。
CDやMP3みたいに簡単に曲を飛ばしたり組み替えたりできないから、好きな曲ばかり聴く、という訳にはいかなかった。好きな曲が4局目だったら、最初の3曲は「我慢して」待たなきゃいけない。これも、昔の人が音楽を聴くときの、一つの作法のようなものでした。だから、60歳、70歳のおじいさんたちは、アルバムの曲順みたいなものを神性視していることも、頭の片隅に入れとくと「異文化理解」の為にはいいかも知れません。
インターネットもYoutubeもなかった。パソコンすらない。スマホはおろか、携帯電話もない。そういう時代に、海の向こうでこんな音楽をやってる奴らがいる、そういうものに接するのが、LPレコードでした。
ぼくは音楽というのは商品じゃないと思うんです。それは作ったひとの思いや魂のこもったものだから、ちゃんとお金を払って、正座して聴くべきだと思います。レコードだったら、繰り返し、繰り返し聴くべきだと思う。人が魂を込めたものっていうものは本当はお金じゃ買えないものだし、買っちゃいけないものだって思うのです。まして、消費するみたいな今の聞きかたはどうなのって思っています。
音楽を聴くときは聴き流さないで!って思います。アルバムと向き合ってみてほしい。(スマホの電源も切ってね。)きっと、とっても充実した一時間になると思います。それから、100枚のアルバムを一回づつ聴くより、一枚のアルバムを100回聴いた方が、絶対豊かな人生になることを保証します。
特に、クリエイティブな人生を送りたいひとはぜひそうしてみてください。今世の中はみんなでよってたかってぼくたちを消費者にしようとしています。でも、消費するだけのひとじゃなくて、クリエイターになりたいっていう人、自分の人生を豊かに深めたいという人は本でも、レコードでも映画でも、繰り返し、真剣に聴くといいのです。

という感じで今日はここまで。次回は、具体的にビートルズのアルバムを紹介して行きたいと思います。ここまでお読みくださり、ありがとうございます!

ビートルズ入門2

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つじもと ひでお
こんにちは、つじもとひでおです。大学卒業後、ビール会社に5年間勤めたあと、30年間、高校で英語を教えていました。部活動はジャズバンドの指導もしていました。現在も、新潟ジュニアジャズオーケストラで小学校から高校までの子どもたちにジャズを教えています。