音楽・ジャズ・ポップス

ビートルズ入門(その5)後期(2/2)

ビートルズの音楽は、初期、中期、後期に分けられます。ここでは、後期の後半の作品についてご紹介します。後期の前半の作品は、ビートルズ入門(その4)でご紹介していますので、そちらもご覧ください。ビートルズの後期の作品は次の6作品。

  • 1 Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band
  • 2 Magical Mystery Tour
  • 3 The Beatles (White Album)
  • 4 Yellow Submarine
  • 5 Abby Road
  • 6 Let It Be

ここでは、”Abby Road” と “Let It Be” そしてパストマスターズについてご紹介したいと思います。

5 Abby Road

このアルバムは、ビートルズの音楽生が最高潮に達した、最高の作品と言えると思います。ビートルズはアイドルグループから出発し、やがてポユラーグループとしてオリジナリティを発揮、そして最後に芸術性と創造性を加えて音楽史に名を残すバンドとなりましたが、その頂点がこのアビー・ロードです。彼らの音楽生にとって、もうロックという枠組みは超越しています。エレキギターとエレキベース、ドラムという編成ももはや必須というより、選択肢になっています。でも逆に言うと、ビートルズはロックじゃなくなったってことなんです。それは永遠にロックバンドであり続けたローリング・ストーンズとは好対照。ジャズで言うとジョン・コルトレーンが最後にはジャズを超越してしまったように。それは、ロックファンやジャズファンにとっては少し寂しいことでもあるのです。

ぼくは、ビートルズはこのアルバムでロックの可能性を突き詰めてしまったと思います。そして次に何が起こったかというと、ロックがジャンルとして衰退してゆくんです。ここが難しいですね。いわゆるクラッシック音楽が、現代音楽で極まるとき、やはり衰退し古典芸能になる。ジャズがフリージャズになってジャンルとして衰退し、古典芸能化したのと同じ。それは良いことでもあるし、生命を失うという寂しいことでもあるのですね。アビーロードと、キング・クリムゾンの「クリムゾンキングの宮殿」が同時期のアルバムであるというのは偶然ではない気がします。プログレッシブロックはロックの究極の形。でもその先はもうないのです。

天才は過去の自分を否定して進化を続けます。天才は一つのジャンルを生み出し、究極まで高め、そして滅ぼしてしまう。なんか、壮絶ですね。そういう意味で、ストーンズやロリンズはずーっと同じことを続けられる。天才というより、職人なんですね。こうした職人芸のようなアーティスト達も素晴らしい。しかし、ビートルズやコルトレーン、マイルスのような天才の作品は、人間の文化、人間の存在について深いことを教えてくれる気がします。

アビー・ロードは後半、メドレー形式になります。9曲からなる組曲と言っても良いと思います。「はぁー、こんなことがロックでできるんだ…」って言葉を失いますね。だから、あくまででもロックアルバムという観点で見たときに、Sgt. Pepper’sが最高傑作になります。そして、アビーロードは一つの音楽として不朽の名作と言わなければなりません。ここには、人間の可聴域を超えた虫の声なども録音されているそうです。この音はデジタルですとカットされています。ぜひ、アナログレコードかハイレゾで聴きたいですね。聴こえなくても、感じることができるとぼくは思うからです。

このアルバムにはジョージの “Something” が収録されています。この曲は、ジョージ初のシングルカットA面(つまり、一番売れそうだとレコード会社が考えた曲)になりました。この曲に、”All I have to do is (to) think of her.” という文があります。これは、All things that I have to do の省略形で、ものすごく良く使う英語表現です。単に、All I have to do で覚えるといいですよ。意味は「ぼくがしなくっちゃならないのは〜だけ」です。なのでこの文章は、「ぼくがしなくっちゃならないのは、彼女のことを考えることだけ」となります。

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2 Let It Be

ビートルズの最後のアルバムが、この “Let It Be” です。このアルバムは、彼らのセッションを、プロデューサのフィル・スペクターが寄せ集め、オーケストレーションを加え、アルバムにしたてたもの。それで、評価は高くないのですが、それでもビートルズの才能は隠しようがなく、一曲一曲は素晴らしいものばかりです。

解散間際のビートルズは、それぞれ音楽性の方向が分かれていました。ジョンは政治性を持つと同時に内省的な自己表現に関心があり、ポールはもっとポピュラーな、ポップで楽しい曲を志向し、ジョージはインド哲学に深い関心を寄せていました。それぞれがソロ活動を必要としていたのですね。ぼくはそれぞれのソロアルバムも大好きですが、それでもやっぱりビートルズには及ばないと思っています。1+1+1+1=4以上になる。それがビートルズだったのですね。

“Let It Be” はドキュメンタリー映画にもなり、メンバーの不和が強調された内容のものでした。ところが、そういう長年の常識を打ち破る出来事が起こりました。Get Back というディズニーチャンネルで配信された、Let It Be 未発表のフィルムを紹介した映画です。ここでは、本当に仲のよいメンバーが映され、なんとかもう一度ビートルズをやり直そうと努力する姿が描かれています。でも、ぼくはそれでもやはり解散は避けられなかったんじゃないかなーって思います。ビートルズでするべきことは全てやり尽くした、そんな気がするからです。

あと、フィル・スペクターがオーケストレーションなど、勝手にアレンジしたという批判を受けて、”Let It Be Naked” というアルバムがリリースされました。こちらは当時のセッションの生音に近いと評判になりました。でもぼくは、こちらのフィル・スペクター版を推します。負の面がたくさんあっても、時代と歴史を背負った作品にはやはり一つの説得力があると感じるからです。ぜひみなさんも聴き比べてみてください。

Let It Be. という文は、使役動詞の Let を使った例文として、誰でも覚えることができます。意味は、「それを(そのように)あらしめよ」です。難しいですね。「それ」とは、状況を表します。ですから、この状況を今あるようにあらしめよ。この状況を今あるようにさせておけ、という意味になります。それで、「なんとかなる」とか「あるがままに」と訳すこともできるのです。けれども、もう少し踏み込むと、これは聖書の言葉から来ています。処女マリアに、「おまえは神の子を身ごもった」と天使が告げる場面。これを受胎告知といいますが、その時のマリアの答えが、”Let it be according to your word.”でした。訳すと、「あなたの言葉の通りにならしめよ」つまり「み言葉の通りになりますように」となります。

ぼくはキリスト教学校で30年教えました。学校では毎朝礼拝があったので、30年間毎朝神に祈ることが習慣でした。ところで、祈りとは何でしょう?普通、自分の願いごとを叶えてもらうように祈りますよね。それはそれで良いのです。しかし、この願い事を叶えて欲しいという祈りは、とっても自分を苦しめることがあるんです。理屈はこうです。願い事というのは自分の欲望です。自分の欲望を叶えて欲しいと祈るということは、欲望にとらわれる、ということでもあります。仏教でも、欲望が自分を苦しめると言いますよね。しかも人は自分にとって最善のことを願い求めるとは限らない。人間は我欲によって苦しめられる、ということがあるのです。そんな時、「御心のままになりますように」と祈ることは、実は大きな慰め、救いになるんです。きっと神様が何とかしてくれる。こう祈ることは、我欲から解放され、新たな展開をもたらしてくれることがあるのです。ぜひ、試してみてください。

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最後にご紹介するアルバムは、「パスト・マスターズ」の1と2。これは、シングル・レコードでは発表されたものの、アルバムに含まれなかった作品を集めたもので、1が前期、2が後期のものです。あまり聴く機会のない、面白い曲がたくさん入っていて、ファンとしてはぜひ揃えたい、そんなアルバムです。

ただ、性質上、アルバムとしての統一感はありません。パストマスターズを聴くと、どれほど良い曲が揃っていても、コンセプトのないアルバムは、「やっぱりねー」ってなるなーということが納得できると思います。笑

良い曲は本当にたくさんありますよ。特に2は全部いい! 笑 「ヘイ・ジュード」もここに入っているんですよ。以前はパストマスターズ1、2と発売されていましたが、今は2枚組になって発売されています。

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以上でビートルズ入門を終わります。
ビートルズの音楽はきっとあなたの人生を豊かに、楽しくしてくれます。友達と集まった時にかけてもいいし、一人で掃除をしたり、料理をしたりする時に聞いてもいい。受験生のみなさんは、歌詞を覚えるときっとあとで役に立ちます。笑
それではみなさん、お大事に、機嫌よくお過ごしください!

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ABOUT ME
つじもと ひでお
こんにちは、つじもとひでおです。大学卒業後、ビール会社に5年間勤めたあと、30年間、高校で英語を教えていました。部活動はジャズバンドの指導もしていました。現在も、新潟ジュニアジャズオーケストラで小学校から高校までの子どもたちにジャズを教えています。